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「9.11の謎」と「陰謀論の罠」

911_2 Photo_2 鳴澤宗男氏の「9.11の謎」と奥菜秀次氏の「陰謀論の罠」を読んだ。
9.11陰謀説は以前からあったが、なぜ読もうかと思ったかというと、私の周りで9.11陰謀説を信じたり影響を受けている人が多いことに気づいたからだ。それも平和運動や労働組合などをやっている人たちなので、なぜそんなことになっているのだろう、と不思議に思っていた。ネットなどで調べてみるとイラク戦争反対の運動で名前は知っていたきくちゆみさんなどが陰謀説を広める運動をしていることがわかった。そんなときに「陰謀論の罠」という本がでていることを知り、どうせならと「9.11の謎」のほうも読んでみようと思ったのだ。フルフォードという人が別に「暴かれた9.11疑惑の真相」というのを書いているようだが、薄い方の本を選んだのは、あまり長い時間関わりたくないと思ったからだ。実際今日も「陰謀論」に関するブログを読んでいるといつの間にか何時間も経っていた。こんな事にそんなに関わっていられるか!というのが実際、私が最後に達した結論でもある。

さて、9.11陰謀説というのは2001年9月11日にアメリカ合衆国で発生した同時多発テロ事件がアメリカの自作自演であるとするもので、そのほかに自作自演とまでは言えないがアメリカがわかっていて防ごうとしなかったというのもあるようだ。「9.11の謎」を読むと、世界貿易センター(WTC)ビルが航空機の突入を受けて崩壊してゆく様子が、航空機の衝突による衝撃では説明できないこと、当時ビルにいた人が航空機に突入前に下の方からの爆発音を聞いていたという証言があることなど、ペンタゴンやペンシルバニア州の村に落ちた航空機についても当局が説明していることには矛盾が多いことなどが例証されている。一方「陰謀論の罠」はこちらのほうが後に書かれたこともあり、それらについて、崩壊するビルは航空機の追突によるものとして説明できる、爆発音の証言はあとから否定されているなど、基本的に反論されている。それらすべてを紹介、評価することはできないが、両者を呼んでいくつか感じたことを挙げてみる。
  • 陰謀説の最も印象的なのは、航空機の衝突とジェット燃料の発火による建物のへのダメージは全壊に至らせるには不十分だ、という議論だろう。「陰謀論の罠」ではこれが可能だという。この議論について両者を読んでもどちらのほうが正しいとは判断できない。しかしDVD映像を見せてきくちゆみさんなどがこのことを説明するとかなり説得力をもってしまっているようだ(聞いた人の感想)。重要なのは反論もあるという事実を知っていることだろう。
  • ビルにつっこんだのはボーイングではない、などの映像を用いての陰謀説は、「陰謀論の罠」によりかなり反論されてしまっているようだ。
  • WTC7ビルは航空機の衝突なしに崩壊した。このことは陰謀説で爆破された証拠だと強調されている。これについても「陰謀論の罠」は反論しているのだが、私にはいまいち弱いような気がする。
  • そのほかのいろいろな議論についてもはっきり言って、あった、ない。言った、言わない、の話になってしまう。これらのそれぞれについて、自分で判断するための材料を集めるのはごめんこうむりたい。
それでは9.11陰謀説については私のような者には判断不能という事になるのか?そうは思わない。自然界の「超常現象」について、私が培ってきた自然観に基づいて”超自然的な力がはたらいた”などの見方に対して「そんなことはない」と言いうるように、社会事象についても私の考えを持つことができる。 それでは”状況証拠”を考えてみよう。

アメリカは9.11テロを自作自演で行う動機があるか。それはあると言うべきだろう。9.11後の世界は大きく変わった。アメリカは国連の合意も取り付けてアフガン戦争を起こし、イラクにも自分の気に入る政権を作ろうと戦争を仕掛けた。イラク戦争の始めるときの強引さを振り返れば、いかにアメリカが中東に軍事的影響力を広げたかったかが理解できる。中東に戦争を開始するために9.11テロを自作自演するという動機はなくはない。

それでは「9.11陰謀論」をねつ造する動機はあるか。これについて奥菜氏は「9.11テロの背後にいたのがアラブ系テロリストであり、その後政治潮流が反アラブ=親イスラエル」と流れたことで、元ホロコースト否定論者らたちが怒ったことは容易に想像できるだろう」と言っているが、こちらも一理あると言える。

次にアメリカが9.11テロを自作自演することはあり得ることかを考えてみる。
そのためにはアメリカはどのような国かを考えてみなければならない。
奥菜氏は「陰謀論の罠」の後半で世の中の陰謀論について論じている。このなかでベトナム戦争でのトンキン湾事件について、「アメリカの意図せざるでっち上げ」だったとし、アメリカの情報活動の無能力さを論じている。はたして「意図せざる」だったのか、情報機関はそんな無能力なのかと疑問を持ったが、アメリカはたとえばチリにおいても選挙ではじめて社会主義政権が誕生したとき軍隊を派遣し、クーデターを側面から支えたことがあった。アフガニスタンではソ連に対抗するためにビンラディンを支援したし、イランとの対抗上イラクを支援していたこともある。太平洋戦争末期に日本に落とした原爆にしても、ソ連の参戦期日を前にして、原爆投下によって日本が降伏したという形を作り、戦後対ソの力関係で優位に立ちたかったという有力な説もある(西島有厚「原爆はなぜとうかされたか」など)。ようするに、現代のアメリカが、自分の国(の支配層)の利益のためにテロリストを支援したり、他国に多くの犠牲を強いたりということを起こしうる国であることは間違いない。
それでは中東で戦争を起こすために、WTCを爆破することも辞さない国だろうか。私はそうは思わない
WTCでは3000人もの自国民を主としたエリート社員が犠牲になったが、そのような犠牲を生む仕掛けを作る必然性があったとは思えない。自作自演がばれることがあれば、政府がつぶれるくらいではすまないというのが、現代アメリカという国の民主主義の到達点でもある。とはいっても、それだけの必要性があり、仕掛けを作って失敗せずに実行することが可能であれば、全くあり得ないとは言えないだろう。
ここで、このことと関係するもう一つの要因は、陰謀論が書いているようなビルを爆破するための仕掛けの困難さである。奥菜氏は制御解体会社の社長の証言として「WTCビルを破壊するなら、・・・75人編成のチームで2ヶ月間自由にビルに出入り」する必要があるということを挙げているが、ビル破壊に限らず、このような大規模な仕掛けをつくり、失敗無しに実行することが可能とは思えない。
だいたいこのような理由で、私は9.11陰謀説を非常に可能性の低いことと考えている。
ただし、奥菜氏の陰謀論全般を否定する考え方など、同意できない点も多かった。

ここでもう一つ言いたいことは、平和運動などでこのような説がまかり通ることの否定的な面についてだ。
アメリカもイラクでは戦争を起こしたが、東アジアでは北朝鮮との外交交渉によって核拡散を防止しようとしている。平和運動においては世論で戦争勢力を包囲していくことが基本であるはずだ。そこには戦争勢力は世論で包囲しうるという思想がある。イラク戦争反対の世界的な運動はアメリカの戦争を思いとどまらせるまでもう一歩のところまでいっていた。そういうときに”アメリカは戦争を起こすためには自作自演テロで自国民を犠牲にすることも平気だ”という考えは、運動にも否定的な影響を与えるような気がしてならない。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
世の中にはもちろんいろんな陰謀があります。
そこに明確な線を引くことは難しいにしても、やはり「ありえる陰謀」か「ありえない陰謀」かというのは考える必要があると思います。
そのために必要なのは、社会というものに対する基本的な見方のようなものでしょうが、そこが欠けている素朴な人らが、このような陰謀論の信奉者には多いようです。

投稿: かつ | 2007年12月25日 (火) 08時23分

初めまして.御記事のように,慎重な態度というのは,とても好ましいものと思います.今はこれだけコメント差し上げます.

投稿: アルバイシンの丘 | 2007年12月25日 (火) 12時21分

はじめまして。
TB観て、僕も来ました。
僕は観てないんですけど、先日、TBS系列の番組で、
帝銀事件の平沢さんの件で、彼の描いた「春画」=正月に皆[参会者]で厳粛に観照、と。
この謎めいた行為の、宗教的・宗族的意味が解ければ、少し清張的な小説が描けるかもしれませんね。
帝銀事件等の謎も・・。

投稿: 三介 | 2007年12月25日 (火) 13時45分

かつさん

コメントありがとうございます。
コメントの趣旨に同感です。


アルバイシンの丘さん

ブログ拝見させて頂きました。
陰謀論、赤木問題など興味深く読ませて頂きました。


三介さん

私も松本清張の「日本の黒い霧」など昔読みました。
このころの日本にはそれこそ陰謀が満ちていましたね。

投稿: アンドレ・アカシ | 2007年12月25日 (火) 22時31分

キャスターの後ろで第七ビルがきれいに立っている映像が写っているのに、「ただいま入った情報によると第7ビルも倒壊したもよようです」って言っちゃったけど、ずっと、ありましたよね、第7ビル。そして実際に倒れる5秒前に突然画面が砂の嵐になってしまったのは、世界中の人が確認してます。
これについては「陰謀論の罠」では、どう説明するんでしょうか?

投稿: 坂田 | 2009年6月25日 (木) 21時38分

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