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沖縄戦での集団自決軍強制 検定意見は撤回すべき

文部科学省は、教科書会社六社から出ていた訂正申請を承認したが、「軍の強制」を削除させた検定意見に固執し、撤回しなかった。
渡海文科相は沖縄での県民大会の直後、「訂正申請があれば真摯(しんし)に対応する」と表明。11月に各社から申請が出されたことを受けて、文科省の諮問機関、教科用図書検定調査審議会(検定審)に検討を要請。検定審日本史小委員会は25日に訂正申請を承認する報告をまとめた(12/27朝日記事を整理)。
(報告要旨)
集団自決に関しては従来、日本軍の隊長が住民に自決命令を下したことが通説として扱われてきた。近年研究者の著書等で隊長命令の存在は必ずしも明らかでないとするものも出ており、これを否定する著書が見られないことから、軍命令の有無が明らかでないという見解が定着しつつあると判断された。
すべての集団自決が軍の命令で行われたと誤解される恐れがある記述について検定意見を付することとした。軍の命令の有無について断定的な記述を避けるのが適当だと判断したもので、集団自決に関する軍の関与に言及した記述を否定する趣旨ではない。
訂正申請の正確性や妥当性を判断するため、専門家の意見もふまえ小委員会としての基本的とらえ方を整理した。
(1)集団自決が起きた状況をつくった要因として、軍の関与は主要なもの
(2)軍命令で行われたことを示す根拠は確認できていない
(3)住民側から見れば、自決せざるを得ないような状況に追い込まれたとも考えられる
発行者には、訂正記述の趣旨の確認を求め、資料の提出を随時求めた。また、記述の趣旨の確認、疑義がある点について説明を求めた。この過程で、5社7冊について申請の取り下げがあり、訂正文の理由の修正を行った上で、再度申請された。
小委員会はこれらを審議し、いずれも承認すべきだとの意見案をとりまとめた。
沖縄での県民大会を受けて問題が起こったかのような雰囲気があり、教科書の内容に政治が介入することがどうなのか、と言われているが、この問題はの発端は、あくまでも今年の教科書検定において突然、沖縄戦での集団自決で軍の強制があったという記述に検定意見が付いたことにある。であるからなぜ定説を覆して検定意見が付いたのかということがもっと問題になっていいはずなのだ。そのことに配慮してか、報告書ではこの経緯を説明している。しかしここでは「軍の強制」があったかどうかということを「隊長の命令」の有無に矮小化しているように思われる。またここでの研究者の著書等が大江健三郎の「沖縄ノート」をめぐる名誉毀損裁判関連のことなどを指しているとすれば、この裁判は継続中であり、軍命令の有無が明らかでないという見解が定着しつつあるという判断すらも無理があると言うべきだ。
当初文科相は検定の過程では審議会にはかったので客観的なものだと言っていたが、実際には文科省の調査官が案を作成し、沖縄戦の専門家もいない審議会に形だけはかったということが国会審議でも明らかになった(私の別サイトで書いたが、案を作成した調査官が「新しい教科書をつくる会」などの”靖国派”だったこともわかり、今年突然検定意見がついたのが彼らの運動に沿ったものということも言われている)。そこで文科省もまともな審議をしていることを示さざるをえなくなり、今回の報告書では9人の専門家に意見を聞き、その内容も公開された(以下朝日新聞から。強調は引用者)。
  • 大城将保氏(沖縄県氏編集委員=沖縄戦研究) 「戦闘能力のないものは捕虜になる前に自決(玉砕)せよ」という方針は全軍的な作戦方針に基づく。避難民は、手榴弾や爆薬が支給された時点で「軍の自決命令」と受け止めるように心の準備がされていた。沖縄戦をまともに調査・研究している研究者やジャーナリストで「命令・強制・誘導等の軍の関与はなかった」と断言できるものは私の知る限り一人もいない。

  • 我部政男氏(山梨学院大教授=日本近代史) 明確なことは、「集団自決の起こった歴史的な事実の背景に「軍官民一体化」論理が存在していたこと。戦時におけるこの国民意識の存在の意義から「集団自決」の発生を考えることが、ごく自然なように思われる。「軍命令」は「軍官民一体化」論理の範疇に入るものだと考える。

  • 高良倉吉氏(琉球大教授=琉球史) 背景として重視すべき点の一つは、目前の住民=国民の生死よりも作戦遂行を至上とした日本軍側の論理だ。日本軍側の論理や特質を抜きに「集団自決」事件を説明することは不可能であり、そのことを特筆としつつ歴史としての沖縄戦を提示することが求められている。

  • 秦郁彦氏(現代史家=日本近現代史) 命令は発令、受令者名、日付、番号を記した文書によるのが原則であり、正規の戦隊長命令が出ることはあり得ない。軍命説が成り立たぬ理由としては、自決の「強制」は物理的に不可能に近いこと、自決者は全島民の3割に及ばず多数が生きのびたこと、攻撃用手榴弾の交付は集団自決との因果関係はないことなどがある。

  • 林博史(関東学院大教授=日本近現代史)米軍に捕らえられると残酷な扱いを受けて殺されるという恐怖心の扇動、多くの将兵が予め手榴弾を配って自決せよと言い渡していたことなど、軍は様々な方法で「集団自決」を強制していった。部隊長が直接命令したかどうかという論点から強制と誘導を否定することはできない。

  • 原剛氏(防衛研究所戦史部客員研究員=軍事史) 渡嘉敷、座間味の集団自決は軍の強制と誘導によるとは言えない。「捕らえられて殺害されるか辱めを受けるよりも死を選ぶ」風潮が強かったこと、「捕虜になるのは恥ずかしいこと」という観念があったことが原因と考える。ただし、このような事態に追い込まれたのは、政治・教育・社会風潮・戦争などから醸し出されたものだといえよう。

  • 外間守善氏(沖縄学研究所所長=沖縄史) ①日本本土の一億日本人のため沖縄島は防波堤として使われた。②軍の存在は住民にとって脅威で、軍隊という組織と秩序は沖縄島を守り住民を守るためと理解されていたが、戦闘に入った瞬間、島民は逃げ場を失って右往左往した。集団自決の問題も①②の問題に通底している。

  • 山室建徳氏(帝京大講師=日本近現代史) 前後の状況を見ずに、一部の日本軍が住民に自決を強要したとだけ記述するのは、それが事実だったとしても、適切な歴史叙述とは言い難い。少なくとも日本軍将兵の「集団自決」や特別攻撃も合わせて記述すべきだろう。ともに、日本人の戦死観を考える上で、欠くことのできない要因だからだ。

  • 匿名希望の軍事史家(要旨を文科省が発表) 沖縄戦は、日本国土が戦場となった希有の例であり、住民が戦闘に巻き込まれた。集団自決の起こった原因・背景としては、敵から逃げることができず、投降すべきではないという集団心理が働き、軍人に要求される規範が住民に心理的強制として作用したことがある。
さすがに専門家の発言なので勉強になる。文科相が選んだ専門家なので、おそらく”かたよりなく”選択されているのだろう。秦氏は典型的に軍命に矮小化しているように感じられる。それにしても島民の3割近くが自決したとは大変なことだと教えられた。人によってニュアンスは異なるものの、支配的なのは軍の強制を肯定している考え方のように思える。とりわけ、多くの専門家が”軍の強制”をどうとらえるかということで意見を述べているのが注目される。審議会がこれらの意見から、3つの「基本的考え方」にまとめているはずなのだが、隊長命令と強制とを使い分けることで無理矢理”検定意見は撤回しない”という結論に持っていっている観が免れない。せっかく専門家の意見を聞いたのだから、軍の強制をどうとらえるかについても専門家の意見に従えばよいのだ。
文科省の審議の枠組みから考えても、沖縄戦集団自決への軍強制の記述に今年いきなり検定意見がついたことは説明できず、検定意見は撤回すべきで、当初の執筆者の記述の復活こそ行われるべきだ。

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コメント

読み返したら、冒頭から何を言っている文章かわからない感じだったので、下線部を追加しました。

投稿: アンドレ・アカシ | 2007年12月30日 (日) 02時47分

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